下地グラフ5族における固定共通近傍推定量の成立条件と、次数を保存した対照による検証
前報の推定量を、知人の下地を五つの族に取り替えて検証した。二つは再現し、三つでは測定そのものが成立しなかった
前報の結論は、知人の下地をWatts-Strogatzに固定したまま得たものだった。下地を五つの族に取り替えて、結論が残るかを測った。五つのうち三つでは、推定量が成立しなかった。共通の友人を2人以上持つ二者がほぼ存在せず、推定量の分母が無い。決定的だったのは配置模型を対照に置いたことである。Watts-Strogatzとほぼ同じ次数列を持ちながら、クラスタ係数だけが0.494から0.008に落ちている。この族で使える出会いが26.1%から0.01%に崩れた。成立条件はクラスタであって次数ではない。成立した二つの族では、対照条件での偏りはどちらも0.004以下、容量による分離は2.0倍と2.5倍で、方向も大きさも一致した。あわせて、前報で分離しなかった皮肉が、費用に容量の圧迫を掛けると2.45倍に分離することを確かめた。
| 方法 | 平均次数を10に揃えた五つの下地を用意した。ランダム幾何、Watts-Strogatz、Barabasi-Albert、Erdos-Renyi、そして配置模型である。最後の一つが対照で、Watts-Strogatzとほぼ同じ次数列を持ちながらクラスタ係数だけが低い。次数の効果とクラスタの効果を分離するために置いた。各族について、共通の友人の数が単一の値に定まる出会いが全体に占める割合を先に測り、そのうえで前報と同じ推定量を走らせた。皮肉については、費用に当人の容量の圧迫を掛ける条件を追加した。重みは打ち明けと共用しているので、対照条件は両経路に対して同時に対照であり続ける。 |
|---|---|
| 結果 | 使える出会いの割合は、ランダム幾何29.7%、Watts-Strogatz 26.1%に対し、Barabasi-Albert、Erdos-Renyi、配置模型はいずれも0.01%だった。後者三つは1走行あたり18件から22件しかなく、推定量の分母が無い。成立した二つの族では、対照条件での偏りが+0.0036と+0.0013、義務の重み6での容量による分離が2.02倍と2.46倍で一致した。皮肉は、費用に容量の圧迫を掛けない条件では四群でほぼ同じ(0.349対0.361、比0.97)だったが、掛けた条件では0.217対0.088、比2.45に分離した。 |
| 知見 | この設計が使えるのは、共通の友人を複数持つ二者が十分な頻度で出会う社会構造に限られる。決めているのはクラスタであって次数ではない。配置模型が同じ次数列を持ちながら崩れたことが、その証拠になる。実データに当てるときは、解析の前に「共通の友人の数が定まる二者の割合」を先に測り、閾値を下回るなら設計ごと使わない。現実の対人ネットワークのクラスタ係数は一般に高いので実務上の障害にはなりにくいが、確認せずに進めてよい前提ではない。皮肉については、打ち明けと同じ個体差で動くためには、皮肉の失敗の痛みもまた維持容量に対して課金されている必要がある。 |
| 限界 | 高クラスタの別の族、たとえばコミュニティ構造を持つ確率ブロック模型で偏りが0から外れるなら、成立条件はクラスタだけでは足りないことになる。平均次数を上げれば低クラスタの族でも共通の友人が育つはずで、そこで結論が再現しなければ、効いていたのはクラスタではなく共通の友人の絶対量ということになる。この分岐はまだ測っていない。皮肉に容量の圧迫を入れた条件で打ち明け側の比が壊れるかも確かめていない。壊れるなら、二つの経路は独立ではない。 |
前報で一つの結論を出した。共通の友人の数を整数値で固定して推定すれば偏りが無く、そのうえで維持容量の低い個体だけが共通の友人にまつわる模様を出す。ただしこれは、知人の下地をWatts-Strogatzという一つの作り方に固定したまま得たものだった。
下地を取り替えても残るか。測った。
五つの下地を、平均次数を揃えて用意する
| 下地 | クラスタ係数 | 次数の標準偏差 |
|---|---|---|
| ランダム幾何 | 0.618 | 3.10 |
| Watts-Strogatz | 0.494 | 0.97 |
| Barabasi-Albert | 0.039 | 10.31 |
| Erdos-Renyi | 0.010 | 3.23 |
| 配置模型 | 0.008 | 0.99 |
最後の一つが対照である。Watts-Strogatzとほぼ同じ次数列(標準偏差 0.99 対 0.97)を持ちながら、クラスタ係数だけが0.494から0.008に落ちている。誰が何人と知り合いかは同じで、その知り合いどうしが知り合いかどうかだけが違う。これで次数の効果とクラスタの効果を分離できる。
三つの族では、推定量が存在しなかった
使う推定量は、共通の友人の数が単一の値に定まる出会いだけを拾う。その出会いが全体に占める割合を先に測った。
| 下地 | 使える出会いの割合 | 1走行あたり | 推定できるか |
|---|---|---|---|
| ランダム幾何 | 29.7% | 79,028件 | はい |
| Watts-Strogatz | 26.1% | 69,565件 | はい |
| Barabasi-Albert | 0.01% | 17.8件 | いいえ |
| Erdos-Renyi | 0.01% | 20.3件 | いいえ |
| 配置模型 | 0.01% | 21.5件 | いいえ |
クラスタの低い三つでは、共通の友人を2人以上持つ二者がほぼ存在しない。推定量の分母が無い。これらの族で計算した数値は20件前後の出会いの上に載った雑音であって、結果として読んではならない。表には残したうえで、成立しない印を立てた。
配置模型が決定的である。Watts-Strogatzと同じ次数列を持ちながら、測定が26.1%から0.01%に崩れた。成立条件はクラスタであって次数ではない。
成立する族では再現した
| 下地 | 対照条件の偏り(低容量 / 高容量) | 重み6の継続効果(低容量 / 高容量) | 比 |
|---|---|---|---|
| Watts-Strogatz | +0.0036 / −0.0013 | 0.375 / 0.185 | 2.02 |
| ランダム幾何 | +0.0013 / +0.0003 | 0.364 / 0.148 | 2.46 |
偏りはどちらも0.004以下。容量による分離は2.0倍と2.5倍で、方向も大きさも一致した。クラスタの作られ方が違っても(格子の配線をつなぎ替えるか、空間的に近い者どうしをつなぐか)結論は動かなかった。
適用範囲として書いておくこと
この設計が使えるのは、共通の友人を複数持つ二者が十分な頻度で出会う社会構造に限られる。実データに当てるときは、解析の前にこの量を先に測り、閾値を下回るなら設計ごと使わない。
現実の対人ネットワークのクラスタ係数は一般に高いので、実務上の障害にはなりにくい。ただし確認せずに進めてよい前提ではないことが分かった。オンラインの薄いつながりだけを拾ったデータや、一部の人に極端につながりが集中するプラットフォームのデータでは崩れうる。
皮肉は、容量の圧迫を入れると分離する
前報では、皮肉の継続効果が四群でほぼ同じ(低容量 0.349、高容量 0.361、比 0.97)で、打ち明けと同じ個体差では動かなかった。皮肉の費用を「誤読の危険 × 継続」とだけ書き、当人の容量の圧迫を掛けていなかったためである。
掛けた条件を追加した。
| 皮肉の費用に容量の圧迫 | 低容量 | 高容量 | 比 |
|---|---|---|---|
| 掛けない | 0.349 | 0.361 | 0.97 |
| 掛ける | 0.217 | 0.088 | 2.45 |
分離した。比2.45は打ち明け側の2.02と同じ水準である。
これは自由パラメータを足して当てたのではない。重みは打ち明けと共用しているので、対照条件は両方の経路に対して同時に対照であり続けている。変えたのは費用が当人の容量で割り増しになるかどうかという構造だけである。
したがって主張は次の形になる。皮肉と打ち明けが同じ個体差で動くためには、皮肉の失敗の痛みもまた維持容量に対して課金されている必要がある。これは心理学的に具体的な言明であり、検証できる。容量に余裕のない人ほど、皮肉が滑ったときの損害を大きく見積もるか、という問いになる。
何が出たら、この報告は覆るか
- 高クラスタの別の族、たとえばコミュニティ構造を持つ確率ブロック模型で偏りが0から外れる。そのときは、成立条件はクラスタだけでは足りない
- 平均次数を上げれば低クラスタの族でも共通の友人が育つはずで、そこで結論が再現しなければ、効いていたのはクラスタではなく共通の友人の絶対量である。この分岐はまだ測っていない
- 皮肉に容量の圧迫を入れた条件で、打ち明け側の比が壊れる。そのときは、二つの経路は独立ではない
再現
simnet.py の下地を作る関数に族と皮肉の圧迫を渡し、run_sim.py の固定推定量を呼ぶ。全数値は robustness.csv にあり、成立と不成立を列で分けてある。