生成AIの誤りを学習者が訂正する機能の利用記録63件の分析
正しい答えを書きながら誤りの核心を言えない例が最も多かった
ある学習サイトに置いた、生徒役の生成AIがわざと誤答を書き学習者がそれを訂正する機能について、2026年7月17日から9月12日までの利用記録63件を分析した。平均点は55.9点、誤りの核心を特定できたのは65.1%だった。最も多い型は、正しい答えを書いているのに誤りの核心に触れない回答である。
| 方法 | ある学習サイトに2026年7月17日から置いている機能の利用記録63件。生徒役の生成AIが誤りを含む解答を書き、学習者が誤りを指摘して理由を説明し正しい答えを書く。採点は別の生成AIが100点満点で行う。 |
|---|---|
| 結果 | 平均55.9点。誤りの核心を特定できた割合は65.1%、合格点の70点以上は55.6%。63件のうち47件が数学で、英語の3件はいずれも0点だった。 |
| 知見 | 正しい答えを書きながら誤りの核心を言えない回答が最も多い。生成AIの誤った式をそのまま引き継いで計算した例もある。答えを出す力と、どこが違うかを名指しする力は別に働いている。 |
| 限界 | 学習の効果は測っていない。事前事後のテストも追跡もなく、割り付けによる比較もしていない。誤答を作るのも採点するのも生成AIで、採点の妥当性を人が検証していない。同一人物の反復と別人の一回目を分けられない。 |
背景
生成AIを学習に使うと成績がどうなるかについては、無作為化比較試験による因果の証拠がある。Bastani らはトルコの高校でおよそ千人を三つの群に割り付けた。素のChatGPTを使う群、答えを出さずヒントだけを返すよう設計した群、生成AIを使わない群である。練習の最中の成績は前の二群とも上がったが、生成AIを取り上げて行った試験では、素のChatGPTを使った群だけが17%下がった。ヒントだけを返す群には低下がなかった。著者らは、解答を丸ごと受け取る使い方が原因だと論じている。同じ道具でも、答えを渡す設計か、足場をかける設計かで結果が逆になる。
では学習者を教える側に回せばよいかというと、そう単純ではない。Chase らは、学習者がエージェントに教える環境では学習時間が延び、成績下位層で伸びが大きいと報告した。しかし Chen らは、プログラミング教育でChatGPTに教えても誤りを訂正する力は伸びなかったと報告している。理由は、ChatGPTが正しい答えを返しがちで、訂正する機会そのものが生まれないことにある。教える形式をとるだけでは足りず、直すべき誤りが要る。
誤りを人工的に用意する設計は既にある。中谷らはRAGを基盤として、一貫した誤りを出す生徒役AIを作った。名知と田中は、誤りを含む生成AIの回答を教材にした高校数学の授業を二時間実施し、正誤判断と誤答修正が適切にできるようになったこと、批判的思考態度の三つの因子が向上したことを報告している。ただしこの実践では研究者が誤答を選定してプリントに記載しており、生徒自身は生成AIを操作していない。二つの解答のどちらかに誤りがあるという足場かけも与えられている。著者らは今後の課題として、学習者が自ら入力した回答を批判的に検討する実践へ段階的につなげることを挙げている。
教室での実践を教師の側から記述した研究もある。馬場と呉は中学校の社会科で、生徒が資料から読み取った内容をもとにChatGPTの学習内容を修正する「AIに教える」単元を開発し、実施した。分析は研究者と授業者を含む四名による八回の話し合いにもとづくアクション・リサーチである。理論的な枠組みはフェルベークのポスト現象学で、鍵になるのは関係的自由という概念である。関係的自由とは、技術が自分の見方や行為を媒介していることを自覚したうえで、その媒介のあり方が望ましいかを問い直しながら技術と関わる力を指す。大家は同じ枠組みで、AIやロボットとのやりとりが人の主体性を脅かすのはどういう場合かを検討し、脅かされるのは関係的自由が損なわれるときだと論じている。
本調査が扱うのは、授業でも実験でもない場面の記録である。誤りがどこにあるかを知らされないまま、自発的に使いに来た学習者が訂正を試みた63件を分析した。
対象と方法
ある学習サイトに2026年7月17日から置いている機能を対象とした。手順は次の通りである。
- 学習者が単元を選ぶ。
- 生徒役の生成AIが問題に解答する。この解答には誤りが含まれている。
- 学習者は、どこが誤りかを指摘し、なぜ誤りかを説明し、正しい答えを書く。
- 別の生成AIが100点満点で採点し、講評を返す。
誤りが含まれていることは事前に伝えるが、どこが誤りかは伝えない。生徒役AIは七つの人物設定から無作為に選ばれ、わざと間違えたことを明かさないよう指示されている。誤答は問題ごとに生成して蓄積し、以後に同じ問題を選んだ学習者にも再利用する。一つの問題につき誤答は最大二種類である。
採点の配点は、誤りの特定が40点、理由の説明が30点、正しい答えが30点で、70点以上を合格とした。誤りを指摘できなくても正しい答えを書けば30点が入る。この配点によって、答えを出せたかどうかと、誤りの在処を言えたかどうかが分けて記録される。
対象は2026年9月12日までに記録された63件である。学習者は自発的に使いに来た人であり、条件の割り付けも、事前事後のテストも、期間後の追跡もない。
結果
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 記録の件数 | 63 |
| 平均点 | 55.9 / 100 |
| 誤りの核心を特定できた割合 | 65.1% |
| 70点以上の割合 | 55.6% |
科目には偏りがあった。63件のうち47件が数学である。内訳は旅人算が11件、順列が6件、組合せが6件、式の展開が5件、実数と数の体系が5件、因数分解が3件、多項式の展開が3件、確率が3件、一次方程式が2件、数列の極限が2件、三角関数が1件だった。理科は物体の運動、光と音、免疫、化学と人間生活、生物の観察と分類で合わせて11件、社会は旧石器時代で2件、英語は語彙とSVOCとbe動詞で3件である。英語の3件はいずれも0点だった。
記録に現れた型
最も多かったのは、正しい答えを書いているのに誤りの核心に触れない回答である。採点の講評には、誤りの核心を指摘できていないという指摘が繰り返し現れる。配点上、正しい答えだけでは30点にとどまり、合格の70点には届かない。核心を特定できた割合65.1%と、合格した割合55.6%の間には9.5ポイントの開きがある。誤りを指摘しながら70点に届かなかった記録が数件あることになる。その数件で何が足りなかったのかは、この記録からは分けられない。
生徒役AIの誤りをそのまま受け入れた回答もある。自由落下で生徒役AIが落下距離を時間の一乗に比例する式として書き、学習者がその式をそのまま使って計算した例がある。位置と時間のグラフでは、生徒役AIが傾きを逆に読み、学習者も同じ向きで説明している。誤りに気づかなかった場合、学習者は生徒役AIの前提を引き継いで先へ進む。
訂正する側の計算違いも講評に拾われている。確率の問題で試行ごとの確率の扱いを誤ったもの、因数分解で符号を取り違えたものがある。誤りを見つける役に回っても、その場で自分が間違えることはある。
同じ問題を続けて二回試した記録が一件ある。数列の極限で、一回目は20点、二回目は92点だった。一度外したあとに、核心を言い直せている。
訂正文の口調にも共通点がある。相手を励ましたり語りかけたりする、教える側の言い方をとる回答が複数あった。役割を逆にしたことが、点数とは別に文体に出ている。
考察
最も多い型は、正しい答えを書きながら誤りの核心を言えないものだった。答えを出す力と、どこが違うかを名指しする力は別に働いている。この差が数字として残ったのは、採点の配点が特定の40点と正答の30点を分けていたからである。両者をまとめて一つの得点にしていたら、65.1%という割合は出てこない。
この結果は Chen らの報告と同じ方向を指す。生成AIに教える形にするだけでは、誤りを訂正する力は伸びない。誤りを用意しても、なお足りない。誤りの在処を言えたかどうかを、正答とは別に測る必要がある。
生徒役AIの誤りをそのまま受け入れた例は、AIED 2026で報告された信頼と依存の研究と重なる。432名を対象に、わざと誤答を混ぜて行動を測ったその研究では、生成AIへの信頼が高いほど適切な依存が下がった。本調査の記録でも、誤りに気づかないとき学習者は生徒役AIの式を引き継いでいる。大家の言い方を借りれば、これは関係的自由が働いていない状態である。訂正を求める設計は、その自覚を求める場面を作る仕掛けとして読める。ただし場面を作ることと、自覚が働くことは別である。63件のうち三分の一強では働かなかった。
馬場と呉が分析したのは、教師と授業者が技術との関係を問い直しながら単元を組み立てていく過程であり、生徒の側に何が起きたかではない。本調査はその裏側にあたる。ただし本調査には授業の設計がなく、学習者が何を意図して来たかも分からない。両者は補い合う位置にあるが、どちらも片側しか見ていない。
英語の3件がすべて0点だったことは、件数が少なく解釈できない。数学47件に対して英語3件という偏りについても、学習者が数学を選んだ結果なのか、この機能を使える単元が数学に偏っていたのかを、この記録からは分けられない。
限界
本調査は観察の記録であり、効果の証拠ではない。測っていないものを挙げる。
- 学習の効果。事前事後のテストも、一週間後の追跡もない。訂正の練習が、後の成績や、学習者が自分で生成AIを使うときの行動を変えるかどうかは分からない。
- 採点の妥当性。誤答を作るのも採点するのも生成AIで、人による検証を挟んでいない。採点側が正答を取り違えている可能性が残る。65.1%という割合は、採点した生成AIがそう判定した割合である。
- 誰が何回やったか。利用者の多くが登録していない状態で使っており、同一人物の反復と別人の一回目を分けられない。63件が63人であるとは言えない。
- この機能に固有の効果かどうか。訂正を求める条件と求めない条件を比べていないため、観察された型が訂正という形式によるものなのか、単に問題を解いたことによるものなのかを切り分けられない。
測るための道具は既に公表されている。批判的思考態度尺度は平山と楠見が、生成AI依存傾向測定尺度は鶴田らが作っている。次に必要なのは、条件の割り付けと、事前事後および追跡の測定である。本調査はその設計を組む前に、何が起きているかを確かめた記録である。
参考文献
- Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakcı, Ö., & Mariman, R. (2025). Generative AI without guardrails can harm learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122. DOI 10.1073/pnas.2422633122
- Chase, C. C., Chin, D. B., Oppezzo, M. A., & Schwartz, D. L. (2009). Teachable Agents and the Protégé Effect. Journal of Science Education and Technology, 18(4), 334-352.
- Chen, A., Wei, Y., Le, H., & Zhang, Y. (2026). Learning by teaching with ChatGPT: The effect of teachable ChatGPT agent on programming education. British Journal of Educational Technology, 57(1), 163-184.
- Trust and Reliance on AI in Education. Artificial Intelligence in Education 2026. DOI 10.1007/978-3-032-29763-1_28
- 中谷圭吾・Pierret Robles Jean Paul・東本崇仁「RAGを基盤とする一貫した誤り生成を行うTeachable Agentを用いた学習支援システム」人工知能学会研究会資料 先進的学習科学と工学研究会105、pp.19-24、2025年。
- 名知秀斗・田中博之「誤りを含む生成AIの回答に批判的思考を働かせる教材を用いた高校数学の実践と評価」コンピュータ&エデュケーション59、pp.70-75、2025年。
- 馬場大樹・呉文慧「「AIに教える」社会科授業づくりのアクション・リサーチ ―ポスト現象学に基づく「技術」への反省的プロセスを踏まえて―」日本教育学会大会研究発表要項83、pp.119-120、2024年。
- 大家慎也「AI・ロボットとのインタラクションはユーザの主体性を脅かすか ―媒介理論から考える―」人工知能学会第40回全国大会、2026年。
- ピーター=ポール・フェルベーク(鈴木俊洋訳)『技術の道徳化 事物の道徳性を理解し設計する』法政大学出版局、2015年。
- 平山るみ・楠見孝「批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響 ―証拠評価と結論生成課題を用いての検討―」教育心理学研究52(2)、pp.186-198、2004年。
- 鶴田利郎・石川久美子・田中博之「高校生・大学生向け生成AI依存傾向測定尺度の開発」AI時代の教育論文誌6、pp.40-45、2023年。
Bastani ら2025、Chase ら2009、Chen ら2026の3件は、著者名・掲載誌・巻号・頁を Crossref の登録記録と照合した。残る8件は照合していない。なお Bastani らの論文には訂正が出ている(Proceedings of the National Academy of Sciences 122、DOI 10.1073/pnas.2518204122、2025年8月)。