鶴田研究所 Tsuruta Laboratory

調査ノート 2026-09-16

5Gスライスの分離と低軌道衛星の最短経路、名前の上の性質が負荷と時間で崩れるかの測定

研究計画。5Gのスライスと低軌道衛星の経路。名前の上の分離と最短が、負荷と時間を入れた途端に崩れるかを測る

要旨

土台になるネットワークを二つ扱う。5G では、用途ごとに論理的に分けたスライスが、同じ物理資源を共有したときにどこまで独立でいられるかを測る。低軌道衛星では、節そのものが動くために、最短の経路が数秒後には消えている状況で、何を最短と呼ぶべきかを問う。どちらも、設計図の上では成立している言葉が、負荷や時間を入れた途端に条件つきになる場面である。実際の衛星への通信や制御は行わず、無線の妨害も起こさない。本ページは計画であり、実験はまだ行っていない。以下に実測値は無い。

方法5G では、公開されている 5G コアの実装などを管理下の環境で用い、少なくとも二つの論理的な通信の種別を構成する。一方を低遅延を想定した一定の通信、もう一方を処理量を重視した通信とし、後者の負荷を段階的に上げて、前者の遅延、揺らぎ、損失、CPU の割り当てへの影響を見る。分離の仕組みを一度に全部変えず、ネットワークの名前空間と仮想の口、経路と遮断の方針、優先制御、CPU の割り当て、記憶、待ち行列、制御と利用者の面の分離を段階的に評価する。許可されたテスト環境の内部の資源だけを操作し、危険な電波の妨害は起こさない。低軌道衛星では、衛星、地上局、衛星同士の回線を図として表し、時刻ごとに繋がる辺と伝わる遅れを更新する。公開された軌道のモデルか、合成した配置を使う。小さな構成では手で計算できる場合と照らし合わせ、経路の実装には単体試験と固定した乱数の種を残す。
結果実験前である。本ページに実測値は無い。「予想」として書いたものは検証前の仮説であって、測定の結果ではない。
知見二つに共通するのは、設計の言葉が条件つきだという点である。「分かれている」は、パケットが別の側へ漏れないという意味にはなっても、一方の負荷がもう一方を止めないという意味にはならない。「最短である」は、その瞬間の図の上での話であって、数秒後も通れるという意味にはならない。どちらも、時間と負荷を入れて初めて本当のことが分かる。
限界公開されている実装と実際の事業者の構成の差。テスト環境の規模。軌道のモデルと合成した配置が、実際の配置を代表しているとは限らないこと。シミュレーションの正しさそのものを完全には保証できないこと。実装と版に結果が左右されること。研究チームが2名であるため、初めに扱う構成を絞る必要があること。
分かれているのは上だけかもしれない 上では二つのスライスが論理的に分かれている。下では同じCPU、待ち行列、帯域を共有している。パケットが別の側へ漏れないことと、一方の負荷がもう一方を止めないことは別の話である。負荷がどう伝わるかはこれから測る。 論理の上では分かれている スライス A 低遅延を想定した一定の通信 スライス B 処理量を重視した通信(負荷を上げていく) パケットは漏れない(はず) 下では同じものを使っている CPU の割り当て 待ち行列 帯域 記憶 B の負荷が下を通って A に届くか? 安全の分離と、使えるという意味での分離は別のもの パケットが漏れなくても、一方の負荷がもう一方を止まる寸前まで追い込むなら、後者の分離は弱い。
論理的には分かれているスライスが、下では同じ物理資源を共有している形。パケットが漏れないことと、負荷が伝わらないことは別である。
LEO側で比較する四つの経路方式 スナップショット最短経路、定期再計算、予測的経路、安定性重視の四方式が、将来のトポロジ、短命リンクへの罰則、定期的な再計算、経路の寿命の考慮をそれぞれ使うかどうかを示す表。 比較する経路の考え方 将来の トポロジ 短命リンク への罰則 定期的な 再計算 経路の寿命 を見る 最短経路(その時刻) 一定間隔で再計算 将来のトポロジを使う 安定性を重視する 使う 使わない どれが良いかではなく、遅延と安定の釣り合いを測る
衛星側で比べる四つの経路の決め方と、それぞれが使う手がかり。先の形を見越すか、短命な回線を避けるか、決まった間隔で計算し直すか、経路が保つ時間を見るか。
最短の経路と、長く保つ経路 節が動くため、時刻ごとに繋がる回線が変わる。左はその瞬間の最短経路で、途中の回線が次の時刻には消えている。右は少し長いが時刻をまたいでも残る経路。どちらがアプリケーションに有利かはまだ測っていない。 その瞬間の最短経路 少し長いが、保つ経路 時刻 t 時刻 t 時刻 t + 数秒 時刻 t + 数秒 短い この回線が消えた 経路を作り直す 同じ経路のまま 数秒後に消える回線を使う最短経路より、少し長くても保つ経路のほうが有利かもしれない。これを数で示す。
時刻ごとに繋がる辺が変わる図。左は各時刻での最短経路、右は少し長くても長く保つ経路。どちらがアプリケーションに有利かは、まだ測っていない。

状態:実験前。この記事は研究の目的と方法を先に公開するための記録である。数値はまだ一つも出ていない。以下に「予想」と書いたものはすべて検証前の仮説であり、実測値として扱わない。

設計の言葉を、条件つきに戻す

ネットワークの設計には、成立しているように聞こえる言葉がいくつかある。「このスライスは分離されている」「この経路が最短である」。どちらも間違いではない。ただし、成立する条件が省かれている。

分離は、パケットが別の側へ漏れないという意味では成立する。しかし一方の負荷がもう一方を止めないという意味では成立しないかもしれない。下では同じ CPU、同じ待ち行列、同じ帯域を使っているからである。最短は、その瞬間の図の上では成立する。しかし数秒後もその経路が存在するという意味では成立しないかもしれない。節そのものが動いているからである。

この二つを一つの計画にまとめたのは、崩れ方が同じだからである。どちらも、静止した図の上では正しく、時間か負荷を入れた瞬間に条件つきになる。

スライスは、どこまで独立でいられるか

5G では、制御の面、利用者の面、運用と保守の通信を適切に分けることが安全の設計上重要になる。またスライスは、違う用途を論理的に分けられる。ただし同じ物理資源を共有する場合、負荷の影響まで完全に独立するとは限らない。

この研究では「スライスがあるから安全」という名前の上の分離ではなく、実際にどの資源が共有され、負荷の変化が隣へどう伝わるかを測る。

低遅延を想定した一定の通信を流すスライスと、処理量を重視した通信を流すスライスを用意し、後者の負荷を段階的に上げていく。見るのは、隣の遅延の増え方、揺らぎ、処理量の落ち方、損失、CPU が奪われる度合い、待ち行列の詰まり、負荷を取り除いてから戻るまでの時間、そして方針の上での分離が破れた回数である。

分離の仕組みは一度に全部変えない。ネットワークの名前空間と仮想の口、経路と遮断の方針、優先制御、CPU の割り当て、記憶、待ち行列、制御の面と利用者の面の分離を、段階的に評価する。そうしないと、どの仕組みが効いたのか分からない。

安全の分離と、性能の分離は別のもの

ここが、この研究でいちばん言いたいところである。パケットが別のスライスへ漏れなくても、一方の負荷がもう一方を止まる寸前まで追い込むなら、使えるという意味での分離は弱い。この二つを分けて測れることに価値がある。

動く節の上で、何を最短と呼ぶか

低軌道の衛星ネットワークでは、節が動くため、回線が使えるかどうかと最短経路が時間とともに変わる。固定した図の上で「ルーターが壊れた場合」を見るだけでは足りない。正常な運用そのものが、途切れない形の変化だからである。

衛星、地上局、衛星同士の回線を図として表し、時刻ごとに繋がる辺と伝わる遅れを更新する。そのうえで、経路の決め方をいくつか比べる。

  • その瞬間の図での最短経路
  • 決まった間隔で計算し直す
  • 先の形を見越して決める
  • 短命な回線を避けて、安定を優先する

どれかを最初から勝者と決めない。見たいのは、遅延を小さくすることと経路が安定していることの間の交換である。

最短が最善とは限らない

数秒後に消える回線を使う最短経路より、少し長くても保つ経路のほうが、アプリケーションには有利かもしれない。これを言葉でなく数で示したい。測るのは、端から端までの伝わる遅れ、届いた割合、単位時間あたり経路が切り替わった回数、一つの経路が保った時間、計算し直す費用、切り替えの回数、復旧までの時間、最も長く切れていた時間、そして負荷がどこかに集まってしまう度合いである。

シミュレーションが正しいことを担保するため、小さな構成では手で計算できる場合と照らし合わせる。経路の実装には単体試験と固定した乱数の種を残す。実際の衛星への通信や制御は行わない。

衛星の経路研究が、これまで測ってきたもの

低軌道衛星の経路については、査読された研究が既にある。多くは混雑をどう散らすかを主題にしている。負荷を分散する経路選択や、ホップ数を分散的に管理する方式が提案され、遅延と処理量の改善として評価されてきた。

本研究がそこへ足すのは、改善の裏側にある量である。経路を選び直せば混雑は散るが、そのたびに経路は入れ替わる。だから一つの経路が保った時間と単位時間あたりの切り替え回数を、遅延や届いた割合と同じ表に並べる。改善が何と引き換えに得られたのかを、同じ実験の中で見えるようにする。

予想(まだ測っていない)

5G については、パケットの漏れは起きないが、CPU と待ち行列を通じて負荷が伝わると考えている。もしそうなら、分離の設計で効くのは遮断の方針ではなく資源の割り当てのほうだ、という話になる。

衛星については、安定を優先する経路のほうが、遅延では劣っても届いた割合と切り替えの回数で勝つ場面があると見ている。ただしそれが成り立つのは、アプリケーションが切り替えに弱い場合に限るかもしれない。

この節は仮説である。実験の後に、実測値、図表、区間推定、誤りの分析へ置き換える。

思った通りにならなくても価値がある結果

負荷を上げても隣のスライスに何も起きなかった場合、それは分離の仕組みが十分だという結果であり、追加の作り込みを避ける根拠になる。衛星のほうで、その瞬間の最短経路が結局どの物差しでも勝ってしまった場合、凝った経路の決め方に手をかける必要はないという結果になる。どちらも、やらなくてよいことを一つ確定させる。

限界

  • 公開されている実装と、実際の事業者の構成との差
  • テスト環境の規模
  • 軌道のモデルと合成した配置が、実際の配置を代表しているとは限らないこと
  • シミュレーションの正しさそのものを完全には保証できないこと
  • 実装と版に結果が左右されること
  • 研究チームが2名であるため、初めに扱う構成を絞る必要があること

参考文献

  1. NIST. 5G Network Security Design Principles: Applying 5G Cybersecurity and Privacy Capabilities. CSWP 36E, 2026. DOI: 10.6028/NIST.CSWP.36E.
  2. NIST. Applying 5G Cybersecurity and Privacy Capabilities: Introduction to the White Paper Series. CSWP 36, 2026. DOI: 10.6028/NIST.CSWP.36.
  3. Liu, P. et al. A Load Balancing Routing Strategy for LEO Satellite Network. IEEE Access, 2020. DOI: 10.1109/ACCESS.2020.3017615.
  4. Li, J. et al. Load-Balancing Routing for LEO Satellite Network with Distributed Hops-Based Back-Pressure Strategy. Sensors, 2023. DOI: 10.3390/s23249789.
  5. 3GPP のネットワークスライシングおよび 5G コアに関する仕様。

上の四件は実物の書誌を確認した。実験の開始時に、利用する軌道モデルの一次資料を追加する。