アペリー数列の mod p 零点個数の計測
素数30000まで広げると、提出済みの論文に注記した上限2は範囲の狭さによる見かけだった
テクニオンのラマヌジャン機械グループが公開した Ramanujan Challenge for AI の問題3.2に、2026年7月8日、部分的な結果を提出した。その論文には Z(p) が2以下であるという注記を入れたが、提出の直後に範囲を600から30000へ広げたところ、最大値は8と10になった。注記は誤りで、定理の仮定は無事である。
| 方法 | アペリーの漸化式を素数 p を法として回し、整数解が0になる添字の個数 Z(p) を数えた。30000以下の素数3,245個すべてについて、ζ(3) 版と ζ(2) 版の両方。小さい素数では厳密な整数値との突き合わせで手続きを検証した。 |
|---|---|
| 結果 | Z(p) の最大値は ζ(3) で8、ζ(2) で10。3個以上になる素数は ζ(3) で9.2%、ζ(2) で24.1%を占めた。提出した論文の構造定理そのものは、4,984件の検証で例外を出していない。 |
| 知見 | 600までで観測された上限2は範囲効果だった。零点は添字 r と p-1-r を入れ替える反射で対になるため、ζ(3) では個数がほぼ常に偶数となり、0か2しか現れない範囲が長く続く。 |
| 限界 | Z(p) の上界は証明されていない。問題3.2の審査結果は2026年9月12日の時点で発表されていない。30000より先の挙動は分からない。 |
背景
アペリーは1979年、ζ(3) が無理数であることを証明した。証明の骨格は一つの漸化式にある。
(n+1)^3 u_{n+1} - (34n^3 + 51n^2 + 27n + 5) u_n + n^3 u_{n-1} = 0
この漸化式には二つの独立な解がある。初期値を b_0 = 1, b_1 = 5 とすると、すべての項が整数になる。これがアペリー数である。初期値を a_0 = 0, a_1 = 6 とすると有理数の解が得られ、二つの比が ζ(3) に速く近づく。分母を払うには、1から n までの最小公倍数の3乗 d_n を掛ければ足りる。ファン・デル・ポールテンによる当時の報告が、この証明の受け取られ方をよく伝えている。ベイカースは同じ年に積分による別証明を与えた。
分母を払ったあとの二つの数 d_n a_n と d_n b_n には、共通の因子が残ることがある。その最大公約数を g_n と書く。共通因子が大きいと、それだけ近似の見かけの精度が水増しされていることになる。テクニオンのラマヌジャン機械グループが2026年7月に公開した Ramanujan Challenge for AI の問題3.2は、この g_n が e の o(n) 乗で抑えられることを予想として掲げている。
アペリー数を素数で割った余りの研究には蓄積がある。ゲッセルはルカスの定理の類似を示し、ベイカースは超合同を与えた。アールグレンとオノはモジュラー形式との関係を明らかにし、マリクとストラウブ、ロウランドとヤサウィは、アペリー型の数列が素数を法として0になる添字の集合を調べた。ストラウブは2023年にゲッセル型の合同式を散発型の数列へ拡張している。本調査が数えた Z(p) は、この系譜にある量である。
対象と方法
2026年7月8日に、問題3.2への部分的な結果を提出した。締切は8月1日である。提出したのは予想の証明ではなく、次の三つである。
- 構造定理。p が √n より大きく n 以下の素数であるとき、n を p 進法で n = jp + n_0 と書くと、p が g_n を割るのは、p が b_{n_0} を割るか、p が a_j の分子を割るとき、そしてそのときに限る。この判定は二つの解について対称で、整数解 b は下の桁を見て、有理数解 a は上の桁を見る。
- 予想の帰着。予想の全体は、二つの解の素因数が疎らであるという主張と同値になる。a の側だけに限れば条件なしでほとんどすべての n について成り立ち、b の側に残るのは Z(p) の上界だけである。ここで Z(p) は、0以上 p 未満の r のうち p が b_r を割るものの個数を指す。
- 付随する合同式。5以上のすべての素数 p について、p は a_{p-1} の分子を割る。
構造定理の検証は、n が10以上220以下の範囲で、素数と添字の組を全件について行った。計算はすべて厳密な整数と分数で行い、浮動小数点を使っていない。
提出の直後に、Z(p) を数える計算を広げた。漸化式を p を法として回し、値が0になる添字を数える。添字は p 未満なので先頭の係数は常に可逆であり、零点で漸化式が破綻することはない。ζ(3) 版と ζ(2) 版の両方を、30000以下の素数3,245個すべてについて走らせた。深い零点を見るために、5000以下の素数669個については p の2乗を法とする計算も行った。
手続きの検証として、3から19までの小さい素数については、厳密な整数値から直接求めた零点の集合と突き合わせた。この突き合わせで、p の2乗を法とする経路の ζ(2) 側に、分母を設定し忘れる誤りが見つかり、本計算の前に修正した。全体の計算時間は65秒である。
結果
構造定理の検証結果は次の通りである。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 検証した素数と添字の組 | 4,984 |
| 例外 | 0 |
Z(p) を30000まで数えた結果は次の通りである。
| 項目 | ζ(3) | ζ(2) |
|---|---|---|
| 調べた素数 | 3,245 | 3,245 |
| Z(p) の最大値 | 8 | 10 |
| Z(p) が3以上の素数 | 299 | 782 |
| その割合 | 9.2% | 24.1% |
個数の分布には偏りがある。ζ(3) では Z(p) が奇数になる素数が3,245個のうち2個しかない。0、2、4、6、8だけがほぼすべてを占める。ζ(2) ではすべての大きさが現れる。
p の2乗で割り切れる深い零点については、5000以下の素数669個を調べた。
| 項目 | ζ(3) | ζ(2) |
|---|---|---|
| 零点の総数 | 608 | 815 |
| うち p の2乗で割れるもの | 1 | 338 |
ζ(2) 側の338件は、p を4で割った余りが3のときに必ず現れる零点である。該当する素数339個のうち338個で、この零点は2乗になっていた。例外は p = 3 の一つだけである。ζ(3) 側の1件は p = 17 の r = 3 で、b_3 = 1445 = 5 × 17^2 にあたる。反射で自分自身に移る点は p = 17 では r = 8 であり、この零点はそこにない。
考察
提出した論文には、注記として一行、600以下のすべての素数で Z(p) は2以下である、と書いた。600以下の素数は107個あり、そのすべてで確かに2以下だった。範囲を30000へ広げると、この観察は成り立たない。上限は無かった。
なぜ2に見えたかは、分布の偏りで説明がつく。零点は添字 r と p-1-r を入れ替える反射で対になる。したがって ζ(3) では個数が偶数になり、0か2しか現れない範囲が長く続く。4が出はじめるのはもっと先である。107個の素数しか見ていなければ、上限が2であるように見える。
ζ(2) で事情が違うのは、反射で自分自身に移る点があるからである。p を4で割った余りが3のとき、この点は自動的に零点になる。3,244個のうち1,633個、およそ半分がこれに当たり、そこでは個数の偶奇が反転する。ζ(2) で奇数が普通に現れるのはこのためで、最大値が ζ(3) より大きいのも同じ事情による。
定理のほうは壊れていない。b の側の条件つきの結果が仮定しているのは、Z(p) が2以下であることではなく、Z(p) が p を log p の2乗より少し大きい冪で割った程度で抑えられることである。今回の計算はこの仮定と矛盾しない。壊れたのは定理ではなく、注記に書いた見通しのほうだった。マリクとストラウブは、零点の密度について経験的な予想を述べているが、上界そのものは与えていない。
この誤りの出どころについて述べておく。本研究は生成AIと協働して進めた。提出物にもその旨を明記し、証明は人が読んで確かめられる形にし、計算コードを正しさの根拠には使っていない。今回まちがえたのは生成AIの出力ではなく、どこまで計算するかという人の側の判断である。600で止めたのは提出者である。範囲を決めるという作業は、道具の性能とは別の場所にある。
限界
- Z(p) の上界は証明されていない。今回の計算は上限が存在しないことを示したのであって、Z(p) がどう伸びるかは示していない。予想の b 側は依然として開いている。
- 30000より先で何が起きるかは分からない。600で足を掬われた以上、30000でも同じことが起きうる。計算した範囲の外について述べることはできない。
- 問題3.2の審査結果は、2026年9月12日の時点で発表されていない。提出物がどう評価されたかは分からない。
- ζ(3) 側で見つかった深い零点1件が、偶然なのか未知の構造によるものなのかは分からない。ζ(2) 側で構造的な零点がほぼ常に2乗になる理由も説明できていない。どちらも5000までの観察である。
参考文献
- S. Tsuruta (2026). The prime structure of gcd(d_n a_n, d_n b_n) for Apéry's sequences: a symmetric digit criterion and partial results toward Problem 3.2. Ramanujan Challenge for AI 提出物、2026年7月8日。本ページの資料欄に全文。
- R. Apéry (1979). Irrationalité de ζ(2) et ζ(3). Journées Arithmétiques de Luminy, Astérisque 61, 11-13.
- A. van der Poorten (1978/79). A proof that Euler missed... Apéry's proof of the irrationality of ζ(3). Mathematical Intelligencer 1(4), 195-203.
- F. Beukers (1979). A Note on the Irrationality of ζ(2) and ζ(3). Bulletin of the London Mathematical Society 11(3), 268-272.
- I. M. Gessel (1982). Some congruences for Apéry numbers. Journal of Number Theory 14, 362-368.
- F. Beukers (1985). Some congruences for the Apéry numbers. Journal of Number Theory 21, 141-155.
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- E. Rowland and R. Yassawi (2015). Automatic congruences for diagonals of rational functions. Journal de Théorie des Nombres de Bordeaux 27(1), 245-288.
- A. Malik and A. Straub (2016). Divisibility properties of sporadic Apéry-like numbers. Research in Number Theory 2, Art. 5. arXiv:1508.00297
- A. Straub (2023). Gessel-Lucas congruences for sporadic sequences. Monatshefte für Mathematik. arXiv:2301.12248
- S. Weinbaum et al. (2025). On Conservative Matrix Fields: Continuous Asymptotics and Arithmetic. arXiv:2507.08138
- Ramanujan Machine Group (2026). The Ramanujan Challenge for AI, Problem 3.2. Technion. arXiv:2607.09721
Beukers 1979、Gessel 1982、Beukers 1985、Ahlgren と Ono 2000の4件は、著者名・掲載誌・巻号・頁を Crossref の登録記録と照合した。残りは照合していない。